文体の曖昧性と具体性

 ここでは、文体の曖昧性と独自性について考えていきます。

曖昧性と具体性の違い

 まずは曖昧性というのがどんなものか例を上げてみます。

 例えば、「虎」という単語。これをこのまま使うことは非常に曖昧性を持ったものと言えます。
 なぜなら「虎」は人によって思い浮かべる容姿や性質が異なるからです。

 次に具体性というのがどんなものか例を上げてみます。

 先に例をだした「虎」で考えてみると、「獰猛な虎」というのは具体性が増しています。もう少し具体性を増してみると「龍克する猛虎」とか言えば、非常に強い虎のイメージが具体的に浮かんできます。

 この修飾の違いが曖昧性と具体性の違いとなります。

 なお曖昧性は抽象性と言い換えてもいいです。

文体の曖昧性の性質

 文体が曖昧性を帯びているとどのような性質が文体に生まれるのか考察してみます。

「虎」という単語は読者のイメージを制限しません。人によっては作者のイメージする虎と異なるものをイメージすることがあります。
 ただし、それまでの中の小説の雰囲気で、同じ「虎」という単語を使っても読者が思い浮かべるイメージは制限することができます。
 例えば、肉食動物だけが出てくるお話の中で、どの動物も仲良く話しているストーリーの中で「虎」が出てきても、その延長線上になり、虎も同様のイメージとなるでしょう。

 次に曖昧性を帯びていることで誰にでも通用する単語を維持できることになります。
「虎」と言われて「虎」以外を思い浮かべる人は少ないでしょう。また「虎」を知らない人も少ない。
 ゆえに、子供から老人まで、また昔から未来まで、幅広く意味の通じる文章になります。
 童話などを思い浮かべて貰えば、曖昧性の重要さを理解できるでしょう。

文体の具体性の性質

 文体が具体的であることは、作者のイメージをダイレクトに読者に伝えることができます。
「龍克する虎」と言われれば、龍を倒すほど強い虎であり、メルヘンチックな虎を思いうかべる人はいないでしょう。
 ダイレクトにイメージが伝わることにより、読者は創造にかける時間が減り、文章をすぐに読み進めることができるようになります。
 文章を素早く理解するというのは重要で、物語への没入感を引き起こしやすくなります。

 次に具体性があることのデメリットを説明します。
 具体性があるのはよいですが、それが「加藤清正公に成敗された虎」などのより狭い範囲の具体性を帯びた場合、具体的であるがゆえに説明に使われた単語を理解していないと読者にイメージが伝わらなくなるということです。
 この場合は、安土桃山時代に豊臣秀吉が朝鮮出兵した際、加藤清正という槍の名手が虎を成敗したことを知らないと、どんな強さの虎なのかイメージができません。
 具体性というのは知っていれば細かなニュアンスも伝わりますが、知らなければまったく伝わらないのです。

どっちが良いか

 文体を曖昧性と具体性のどちらに寄せた方がよいのかは、対象とする読者や書く話の内容によって変えるべきです。
 ただし、単調になるため、効果を考えて適所で文体を意識して変えるのも良いかもしれません。

 例えば、話と話の間にある裏を見せる場合などは、曖昧性が高い方が思わせぶりで出す情報も制限されて、目的にふさわしいと思います。またその後の具体性が帯びた文体に戻った時に、読者の頭の中にある曖昧性が次第に具体性に置き換えられていく楽しみも演出できます。

曖昧性の高い文体の例

  • 星新一

具体性の高い文体の例

  • 神坂一
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Last-modified: 2012-10-15 (月) 21:40:19 (1863d)